③ 動作・行動をあらわす言葉
人や物が「動く」「考える」「話す」といった行為を表す基本の動詞が中心です。
「いぬ(行く)」「ながむ(眺める・詠む)」など、日常的な動きから心の働きまで幅広い動詞が登場します。特に古文では、現代とは違う意味に注意が必要な単語も多いので、しっかり理解しておくと安心です。
1. あり
存在する、生きている、暮らしている。
例文: 人の命は風の前の塵にぞありける。
現代語訳: 人の命は風の前のちりのようなものであった。
2. いぬ
行く、去る。※「犬」ではありません。
例文: 月は西の山にいぬ。
現代語訳: 月は西の山に去っていった。
3. おこなふ
仏道修行する、勤行する。
例文: 日夜おこなひたまふ。
現代語訳: 昼も夜も仏道修行をなさる。
4. ものす
する、言う、行く、来るなど、さまざまな動作の代用。
例文: いかにものしたまふぞ。
現代語訳: どうなさっているのですか。
5. ゐる(居る)
座る、とどまる。
例文: 御簾の内にゐたまへり。
現代語訳: 御簾の内にお座りになっている。
6. ゐる(率る)
連れる、伴っていく。※同音異義語に注意。
例文: 童(わらは)どもをゐて参る。
現代語訳: 子どもたちを連れて参上する。
7. まうづ
参上する、参詣する。
例文: 寺にまうでけり。
現代語訳: 寺に参詣した。
8. いらへ(名詞形)
返答、応答(上の「いらふ」の名詞化)。
例文: いらへのことばもなかりけり。
現代語訳: 返答の言葉もなかった。
9. たづぬ
訪ねる、探し求める。
例文: 故郷をたづねて泣きぬ。
現代語訳: 故郷を訪ねて泣いた。
10. とぶらふ
見舞う、訪れる、弔う。
例文: 病人をとぶらふ。
現代語訳: 病人を見舞う。
11. みる
見る、世話をする、結婚する。
例文: 人に見られぬ仲となる。
現代語訳: 人と結婚する仲となる。
12. あふ
結婚する、男女が契る。
例文: かの女にあへりけり。
現代語訳: あの女性と結婚した。
13. かしづく
大切に育てる、世話をする。
例文: 姫君をかしづきたてまつる。
現代語訳: 姫君を大切に育て申し上げる。
14. まどふ
迷う、うろたえる、悩む。
例文: 驚きまどひぬ。
現代語訳: 驚いてうろたえた。
15. ならふ
慣れる、親しむ。
例文: 都に習ひたるふるまひ。
現代語訳: 都に慣れた様子。
16. まもる
見つめる、じっと見る。
例文: 空をまもりゐたりけり。
現代語訳: 空をじっと見つめていた。
17. ながむ
物思いにふける、ぼんやり見る/詩歌を詠む。※文脈で意味が変わる。
例文: 月をながめて過ごす。
現代語訳: 月をぼんやり見て過ごす。
18. おぼゆ
自然に思われる、思い出される、似ている。
例文: 昔のことの、おぼえけるかな。
現代語訳: 昔のことが思い出されたなあ。
19. おもふ
思う、感じる、愛する。
例文: 君をおもひて泣く。
現代語訳: あなたのことを思って泣く。
20. ねぶ
年をとる、大人びる。
例文: ねびゆくさま、いとよし。
現代語訳: 年を重ねていくようすがとても上品だ。
21. まうく
用意する、準備する、手に入れる。
例文: 宴の座をまうく。
現代語訳: 宴の席を準備する。
22. たのむ
あてにする、頼みに思う/頼みにさせる。
※上二段・下二段で意味が異なる(文法注意語)。
例文: 親をたのみて都へ上る。
現代語訳: 親を頼りにして都へ上る。
23. やる
気を晴らす、送る、行かせる。
例文: 心をやるために歌を詠む。
現代語訳: 気をまぎらわすために歌を詠む。
24. おこたる
病気がよくなる、中断する。
例文: 病おこたりて参る。
現代語訳: 病気がよくなって参上する。
25. ものすごす
時を過ごす、暮らす。
例文: 山里にものすごしけり。
現代語訳: 山里で時を過ごしていた。
26. あきらむ
明らかにする、晴らす。
例文: 思ひをあきらむ。
現代語訳: 思いをはっきりと述べる。
27. かこつ
嘆く、恨みを言う。
例文: 我が身の不運をかこつ。
現代語訳: 自分の不運を嘆く。
28. すまふ
抵抗する、争う。
例文: 主にすまふことなし。
現代語訳: 主人に逆らうことはない。
29. つかふ
使う、仕える。
例文: 主人につかふ人々。
現代語訳: 主人に仕える人々。
30. ゐざる
膝をついてじりじりと進む(座ったまま動く)。
例文: 縁の端へとゐざりぬ。
現代語訳: 縁側の端へとじりじり進んだ。
31. あらはる
現れる、明らかになる。
例文: その罪、あらはるる。
現代語訳: その罪が明るみに出る。
32. おどろく
目を覚ます、はっと気づく。
例文: 鳥の声におどろきぬ。
現代語訳: 鳥の声に目が覚めた。
33. いらふ
返事をする、応答する。
例文: 何ともいらへず。
現代語訳: 何も返事をしなかった。
34. のたまふ
おっしゃる(尊敬語)。
例文: 「花見む」とのたまふ。
現代語訳: 「花を見よう」とおっしゃる。
35. しのばる
耐え忍ぶ、隠れる(「しのぶ」と関連語)。
例文: 恋しきことをしのばる。
現代語訳: 恋しい思いをこらえる。
36. いそぐ
準備する、急ぐ。
例文: 出立(いでたち)をいそぎけり。
現代語訳: 旅立ちの準備をしていた。
37. さぶらふ
お仕えする、あります(謙譲・丁寧語)。
例文: 御前にさぶらふ。
現代語訳: 御前にお仕えしている。
38. たゆむ
怠ける、油断する。
例文: 勤行たゆまず。
現代語訳: 勤行を怠らない。
39. あらがふ
争う、反論する。
例文: 人にあらがひて、言ひ負けず。
現代語訳: 人に反論して、言い負けなかった。
40. かへす
返す、帰らせる。
例文: 使者をかへす。
現代語訳: 使いの者を帰らせる。
41. ときめく
寵愛を受ける、時流にのる。
例文: 帝にときめきたまふ。
現代語訳: 帝に寵愛されておられる。
42. かる(離る)
離れる、別れる。
例文: 人の心にかれぬる身。
現代語訳: 人の心から離れてしまった身。
43. ありく
動き回る、歩き回る。
例文: 野山をありく。
現代語訳: 野山を歩き回る。
44. しのぶ
人目を避ける/恋い慕う。
例文: 忍びて通ふ。
現代語訳: 人目を避けて通う。
45. ふす
伏せる、寝る。
例文: 病みふして臥す。
現代語訳: 病気で寝込む。
46. やむ
終わる、治まる。
例文: 雨やみにけり。
現代語訳: 雨がやんだ。
47. わたる
行く、来る、通る、生きる。
例文: 橋をわたる人々。
現代語訳: 橋を通る人々。
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