④ 敬語・謙譲語など身分に関わる表現
身分差がはっきりしていた時代の、人間関係をあらわす敬語・謙譲語の表現です。
「たまふ」「まゐる」「さぶらふ」などは、敬語の基本語。これらを知っておくと、誰が誰に対して言っているのかが読み取りやすくなります。敬語の意味によって、人物関係の理解が大きく変わることもあるので要注意です。
1. たまふ
[尊敬語]〜なさる・お与えになる/[補助動詞で謙譲]〜ております。
※四段(尊敬)と下二段(謙譲)で意味が異なる。
2. のたまふ
[尊敬語]おっしゃる。
※主に天皇・上皇・貴人などが主語のときに使う。
3. のたまはす
[尊敬語]おっしゃる。
※「のたまふ」の丁寧・重厚な言い方。
4. おほす
[尊敬語]おっしゃる。
※上皇・法皇などが使うことが多い。
5. きこゆ
[謙譲語]申し上げる/[自発・受身]聞こえる、評判になる。
6. きこえさす
[謙譲語]申し上げる。
※「きこゆ」の丁寧な形で、文語敬語表現の基本。
7. まうす
[謙譲語]申し上げる/(補助動詞)〜申し上げる。
例文: 歌をまうす。=歌を詠み申し上げる。
8. まゐらす
[謙譲語]差し上げる、〜申し上げる。
9. たてまつる
[謙譲語]差し上げる/[尊敬語]お召しになる・お乗りになる・召し上がる。
※場面で意味が変わる多義語。
10. さぶらふ
[謙譲語]お仕えする/[丁寧語]あります・おります。
例文: 御前にさぶらふ。=御前におります。
11. はべり
[謙譲語]お仕えする/[丁寧語]あります。
例文: 侍りける人あり。=お仕えしていた人がいた。
12. います
[尊敬語]いらっしゃる。
※「あり」「をり」「行く」「来」などの尊敬形。
13. いますがり
[尊敬語]いらっしゃる。
※「います」の連語、丁寧な尊敬表現。
14. おはす
[尊敬語]いらっしゃる/お出かけになる。
例文: 帝おはす。=帝がおいでになる。
15. おはします
[尊敬語]いらっしゃる。
※「おはす」よりさらに丁寧な表現。
16. まゐる
[謙譲語]参上する、差し上げる/[尊敬語]召し上がる。
17. きこしめす
意味:①お聞きになる、②召し上がる(尊敬語)
※「聞く」「食べる」「飲む」などの意味を持つ尊敬語で、特に天皇や貴人に対して用いられる格式高い語。
例文:御酒(みき)をきこしめしけり。
現代語訳: お酒を召し上がった。
18. まかる
[謙譲語]退出する、参る(軽い丁寧語のように使われることも)。
例文: これにてまかりぬ。=これにて失礼します。
19. まかづ
[謙譲語]退出する。
20. たまはる
[謙譲語]いただく。
※「たまふ(尊敬)」とは活用が異なる。
21. うけたまはる
[謙譲語]お聞きする、お受けする。
22. おぼしめす
[尊敬語]お思いになる。
※「思ふ」の尊敬形。
23. ごらんず
[尊敬語]ご覧になる。
※「見る」の尊敬形。
24. しろしめす
[尊敬語]知っていらっしゃる・治めていらっしゃる。
※「知る」「領る(しる)」の尊敬形。
25. めす
[尊敬語]召し上がる、お乗りになる、お呼びになる。
※非常に多義的な敬語。
26. あそばす
[尊敬語]なさる。
※「す(する)」の尊敬形で、和歌・演奏などにも使われる。
27. おぼす
[尊敬語]お思いになる。
※「思ふ」の尊敬語。
28. おもほす
[尊敬語]お思いになる。
※「おぼす」と意味は同じで、やや古風な表現。
29. おほとのごもる
[尊敬語]おやすみになる。
※「寝る」の尊敬語で、天皇や貴人に使う。
30. まゐらす(補足)
※8番と重複語。こちらでは補助動詞としての用法も強調。
例文: 歌を詠みまゐらす。=歌を詠み申し上げる。
31. そうす
[謙譲語]天皇・上皇に申し上げる。
※「奏す(そうす)」の読み。
32. けいす
[謙譲語]中宮や皇后に申し上げる。
※「啓す(けいす)」の読み。
33. つかうまつる
[謙譲語]お仕えする、~申し上げる。
※「仕ふ」の謙譲形。
34. はべる(補足)
※11番の補足。古文中では会話文によく登場。
例文: はべりけり。=ございました。
35. しろす
[謙譲語→尊敬語的用法あり]知る、領有する(主君が主語のとき)。
36. おもほしめす
[尊敬語]お思いになる。※「思ふ」の尊敬形で、「おぼす」「おもほす」より丁寧。
例文: かくもありけりとおもほしめす。
現代語訳: このようなことだったかとお思いになる。
37. まゐでく
[謙譲語]退出する、参上する(くだけた表現)。
例文: まゐでこそ申しけれ。
現代語訳: 参上して申し上げたのだった。
38. ごらんぜさす
[謙譲語的敬語](お)見せ申し上げる。※「ご覧ず(見る)」+「さす(使役)」。
例文: これをばごらんぜさせよ。
現代語訳: これをお見せ申し上げよ。
39. みそなはす
[尊敬語]ご覧になる。※「見る」の尊敬語。
例文: 花をみそなはしけり。
現代語訳: 花をご覧になった。
40. あげたてまつる
[謙譲語]差し上げる。※「あぐ(挙ぐ)」+「たてまつる」。格式高い敬語表現。
例文: 宝をあげたてまつる。
現代語訳: 宝を差し上げる。
41. そうろふ
[丁寧語]あります、ございます。※会話文で頻出。
例文: かしこにそうろふ。
現代語訳: そこにございます。
42. あらたまふ
[謙譲語的表現]あらたまった場面で言う・する。※公的・儀礼的な動作を謙って言うとき使う。
例文: 文をあらたまへて奉る。
現代語訳: あらたまって手紙を差し上げる。
43. まうけたまふ
意味:いただく、受ける(謙譲語)。
※「まうける(設く)」+「たまふ」からの派生語。格式高い受け身の謙譲表現。
例文:御教(みおしえ)をまうけたまふ。
現代語訳: お教えをいただく。
⑤ 人間関係・身分・立場をあらわす言葉
「貴族」「女房」「下人」など、当時の身分制度や人の立場をあらわす語です。
「うへ(天皇・上)」や「しも(下の人)」など、古文独自の身分や階層のことばは、現代と異なる社会構造を理解するカギになります。物語に登場する人々の「役割」を知る手がかりにもなります。
1. うへ(上)
天皇、貴人、上の人。
例文: うへのおはします。=天皇がいらっしゃる。
2. した(下)
身分の低い人、目下の者。
例文: 下の者ども、参れ。=下の者たち、来い。
3. みかど(帝)
天皇。
4. きさき(后・妃)
天皇の正妻、皇后。
5. ちゅうぐう(中宮)
天皇の妻である后のうち、最も高い地位の人。
6. おとど(大臣)
大臣。特に「左大臣」や「右大臣」などの高官。
7. うだいじん(右大臣)
朝廷における高官の役職名。左大臣の次席。
8. さだいじん(左大臣)
右大臣より上位の朝廷官職。
9. ないだいじん(内大臣)
左・右大臣に次ぐ重職。※物語では実力者として描かれることも。
10. くらもち(蔵人)
天皇の近くに仕える秘書的役職。機密扱いの人。
11. みやびと(雅人)
風流人、教養ある人。
12. にょうぼう(女房)
宮中に仕える高貴な女性。
13. かんだちめ(上達部)
三位以上の高級貴族の総称。
14. きょう(京)
都(みやこ)、平安京のこと。
15. ざえ(才)
学問、教養、才能。
例文: ざえある人。=教養のある人。
16. こころ(心)
精神、性格、考え方。※性格的な立場の区分にも。
17. ちぎり(契り)
男女の約束、縁、宿命。
例文: 前世の契りありけり。=前世からの縁があった。
18. えん(縁)
(仏教的)因縁、つながり。宿命的関係。
19. はらから(同胞)
兄弟姉妹。
例文: はらから四人ありけり。=兄弟姉妹が四人いた。
20. おとうと(弟)
兄弟の中で年下の男性。
21. はは(母)
母親。
22. ちち(父)
父親。
23. こ(子)
子ども。
24. おとな(大人)
成人した人、目上の人、教養ある人。
25. わらは(童)
子ども、召使いの子ども、年若い者。
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